<第91回> 2025年2月3日 Y.E
「感染性心内膜炎」
これは心臓の弁などの組織に細菌が感染することで起こるまれな疾患です。感染した細菌は組織を破壊し心臓の機能不全を起こします。また細菌の塊が剥がれて血流にのって流れていくことで、脳梗塞などの末梢血管の塞栓症を引き起こすこともあります。このように心臓だけに留まらない“全身性敗血症疾患”(感染を原因として全身に炎症が起きている状態)であり、場合によっては死に至る可能性もある怖い疾患なのです。
では、なぜこの疾患にかかるのでしょうか。
通常は体内の血液は無菌なのですが、様々な原因で一過性に血液中に細菌が侵入することがあり、それを菌血症と呼びます。菌が侵入しても通常は免疫機能が自然と細菌を排除してくれて、無症状のまま過ぎていることもあります。しかし、免疫機能が弱っている状態で菌血症になると、細菌を排除することができず、菌が心臓に付着・増殖し、感染性心内膜炎に至ることがあるのです。先天性心疾患の方や、人工物を使用した心疾患修復術を受けている方は、特に罹患しやすいとされています。
感染性心内膜炎の原因となる菌血症となる要因は様々あり、例えば外傷や医学的処置、肺炎・尿路感染等の感染症等が挙げられます。また、常に細菌が存在する口腔に関連する要因もあります。歯石除去や抜歯等の歯科処置、または虫歯も菌血症の要因となります。もし進行した虫歯があるとなれば、それはそこからは容易に細菌が血液中に侵入できる状態になっているということなのです。当院でも虫歯が原因と考えられる感染性心内膜炎の症例はたびたび認められています。「たかが虫歯なんか」と軽視して放置していると、歯だけでなく心臓も大変なことになるかもしれませんよ。
健康な食生活を送るためにも、そして感染性心内膜炎にならないためにも、虫歯予防に心掛け、定期的な歯科受診や正しい口腔ケアをしていきましょう。
参考
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)