第2回 呼気努力(いきみ)と耳抜きと心エコー図検査と呼吸機能検査

<第2回> 2017年5月12日 伊藤記彦

 1704年にValsalva医師が「いきみ(努力呼気)」を医療に応用した。中耳疾患や鼓膜穿孔患者の診断と治療方法として、口、鼻を閉鎖して努力呼気(いきみ)を行った手技である。現在ではこの手技をValsalva負荷試験として応用されている。
 心エコー図検査の拡張能評価の指標に左室流入血流波形の偽正常化の有無を確かめる手技としてValsalva負荷試験がある。「いきみ(努力呼気)」によって胸腔内圧を上げ、 心臓への静脈還流量を低下させ左室流入血流波形の変化を観察している。
スキューバーダイビングでも「いきみ(努力呼気)」を行っている。水中に潜ると水深の距離によって水圧が変化し耳(鼓膜)の外と中で気圧が異なり、耳(鼓膜)が圧排され耳が痛くなる。これを回避する手段として、ダイバーはレギュレーターの呼吸を止めて、自分の手で鼻を摘み「んっ」と「いきみ(努力呼気)」を行う。すると鼻腔の内圧が高まり耳管を通して中耳腔に空気が送られ鼓膜の外と中の圧力が同圧になり耳の痛みが解除される。この行為を「Valsalva法の耳抜き」といい、一般的にはただの「耳抜き」と言われている。
 我々はトイレで「んっ」という「いきみ(努力呼気)」を無意識に行っている。この「いきみ」は心拍出量を増加させ、重篤な不整脈を誘発させることもある。
 呼吸機能検査のフローボリューム曲線(FVC)測定時には、強制呼出(いきみを持続)させている。すると血圧、心拍数、交換神経、副交感神経、に作用する圧受容体反射と連鎖した反応が起きる(図1)。実際にFVCを行う時は複数回実施させるため注意が必要である。
「いきみ(努力呼気)」を持続させるFVCは胸腔内圧が変化し、血圧の変動、心室頻拍など重篤な不整脈の誘発、脳血管障害など心臓や血管に大きな負担がかかり意識障害などの事故を招く恐れがあるからだ。
 そこで、呼吸機能検査時に注意を要する疾患をあげる。1)
絶対禁忌:急性心筋梗塞、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、大動脈解離、脳血管障害など。
注意を要す病態:喀血、流動血痰、気胸、過換気症、起立性低血圧、狭心症発作、心室頻拍など。
このように呼吸機能検査を行う際には、患者の病態情報を収集したうえで主治医の判断のもとに注意深く検査を実施すべきである。

(図1)努力呼気(いきみ)開始から終了までⅠ~Ⅳ相の変動因子がある

参考文献  
1):「呼吸機能検査のエマージェンシー対応」 JAMIT技術教本シリーズ 呼吸機能検査技術教本 監修 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会  発行 株式会社じほう