第61回 認知症の“不可解”を理解する。そして考える。

<第61回> 2022年8月10日 TK. Sato


先日[認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか]という本から自分も経験した認知症ケアのある生活、そこで遭遇した「不可解」が認知症による特徴的で典型的な知的・行動障害であったのだなと改めて認識できたので今回コラムとして書籍の紹介と自分の体験を紹介したいと思います。

[認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか]は東北福祉大学教授の加藤伸司先生の著書で認知症の行動メカニズムから“心”の捉え方、そして20例ものケースを紹介し、行動の心理をかなりわかりやすく説明しています。
では、認知症とはどの様な定義があるのでしょう。書籍では、認知症と診断される三つのポイントとして・原因が脳の器質的障害であること・意識障害がないこと・知的障害があることがあげられています。つまりは脳に障害があり意識が混濁しているわけではないけれど日常生活を送るのが困難な障害が認められる状態です。
今回テーマにある「不可解な行動」も脳が障害される中での記憶障害やその他の高次脳機能障害が原因です。特に記憶障害では一般的な加齢が体験した“一部”を忘れるのに対し、認知症では体験したこと自体=“全部”を忘れてしまいます。そのため自覚も乏しく、本人と周囲(家族)との症状認識の差が生まれていきます。

私も、現在施設にて療養している祖母をケアしている際には、買い物袋を玄関に置いたまま、買ったものを忘れたとスーパーに戻ってしまうことや補聴器の付け方や新しく買ったものの操作方法を何度も伝え、練習をしでもまた一からに戻ってしまうこと。そして、時には火を止め忘れ、調理器具をダメにしてしまうこともありました。祖母も歳をとってくると忘れっぽくて嫌ね〜と言ったりしていましたが、調理器具を燃やした件などは注意すると『自分ではない』と不機嫌になり、状況を一つ一つ説明して理解してもらおうとするも本人は納得のいかない様子で終わることがありました。書籍に中にも[何をしたか覚えていないのに、失敗と認めようとしない]ケースが紹介され、その中でもヤカンを真っ黒焦げにしてしまうが本人は認めず喧嘩になるエピソードがあります。この時、認知症による記憶障害で火にかけたこと自体が記憶されていないのであれば『自分ではない』は本人にとって全くの正論であり、それにより犯人だと咎められれば不満にも思いますし、怒りもするのは理解できますね…
認知症と付き合っていく上で忘れてはいけない心理的なポイントとして“症状が進んでも感情機能は残る”ということです。認知症の人はなにも分からなくなっていると思われがちですが、初期段階では自分の異変に気づく病感もあり、それによる不安や焦燥を抱えていることがあります。そして、かなり末期まで感情機能は障害されず喜怒哀楽を感じ続けています。周囲の人間が例えば記憶障害に関して怒ったり、強く注意したりします。すると本人は“なぜ怒られたか”は忘れてしまっても“怒られた時の嫌な気持ち”は持ち続けます。つまり、認知症だからと言って何も分からない、感じないわけではない、むしろ理由ははっきりしないけどネガティブな感情だけが蓄積してしまうこともあると理解して接しなくてはいけないということです。
また、同時に重要なポイントとして、本人の感情に配慮しつつも、同時にケアする側の家族の心情にも理解を深めなくてはいけないということです。ケアする家族のことを「第二の患者」、「影の犠牲者」と呼ぶこともあるそうです。認知症になることは、本人はもちろんショックですが、家族もショックです。そして、その周辺症状(徘徊や妄想など)ではケアする側が特に混乱します。実際、ケアする家族の5割にうつや不眠などが見られるそうです。私自身も振り返ってみるとかなり精神的に追い込まれて余裕がなかったことが思い出されます。
書籍ではそうした本人や家族のケアに関しても後半で触れられており、自分一人で抱え込まず相談し、周囲の支援をうけることなどが推奨されています。実際に私もケアマネージャーの紹介を受け相談した際に『頑張りすぎ!負担が偏ってるよ。みんなで少しずつ負担していかなきゃダメ、周りを頼っていいんだよ』といわれ、その言葉に励まされ負担感と将来の不安が和らいだことを今でも覚えています。

認知症をケアしていく際には脳の障害によって生じる「不可解な行動」と適切な理解と距離感を保って付き合っていかなくてはいけません。しかし、その際には認知症を発症した本人とケアをする家族の“感情”にも配慮が必要で、孤独なケアラー(介護者)を生み出さない様にケアラー自身も周囲も注意しなくてはいけません。自分や家族、周囲の人がそうした環境に直面したら一人一人の負担がすこしずつ分担し、笑顔がすこしでも増えるケアプランを考えてみましょう。



〈参考〉
加藤 伸司(2016)『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』河出書房新社