第25回 過度な眠気について

<第25回> 2019年4月8日 M.S

 春になると眠気を感じる人が多いようですね。季節による眠気の違いはホルモン分泌や睡眠時間の変化などが関わっており、それ自体は異常なことではないそうです。しかし世の中には、季節や環境などとは関係なく異常な眠気を催す疾患が存在します。今回は「過度な眠気」の疾患のお話をしたいと思います。

 ナルコレプシーという病名をご存知でしょうか。私は子どもの頃にテレビ番組でナルコレプシーを知り、当時とても驚きました。その番組では、ある男性が時も場所も関係なく眠ってしまい、街中で突然倒れこむ様子が取り上げられていました。このようにナルコレプシーとは、夜間に十分な睡眠をとっても日中に耐え難い眠気を催す疾患です。 日中は15分程度の居眠りで眠気がすっきりとしますが、数時間おきに居眠りを繰り返すといわれています。また、全員にみられるものではありませんが、怒った時・大笑いした時・驚いた時などの強い感情の動きによって脱力が誘発される症状(情動脱力発作)も特徴の1つです。世界平均では2000人に1人 (0.05%) の稀な疾患ですが、有病率は人種により異なり、日本では600人に1人 (0.16%) との報告があります。

 ナルコレプシーには2つの病型 (Type1, 2) があり、問診のほかに反復睡眠潜時検査、脳脊髄液中オレキシンA濃度といった検査の結果から診断・分類されます。反復睡眠潜時検査では暗い部屋の中で目を閉じ、何分で眠りにつくのか、眠りについてすぐにレム睡眠がみられるかを2時間おきに計4-5回繰り返し調べます。当院生理検査センターでも実施しており、脳波により眠りについたかを判断します。また、ナルコレプシーType1に分類される患者さんでは脳脊髄液のオレキシンA濃度が低値という所見がみられます。しかしこの検査を行うことができる施設は限られており、現在の診断基準では問診と反復睡眠潜時検査だけでもナルコレプシーの診断は可能です。

 ナルコレプシーは睡眠・覚醒調節にかかわるオレキシン神経の脱落が原因とされていますが、長らくその機序は不明でした。昨年、ナルコレプシーが自己免疫疾患 (免疫システムに異常をきたし、自己の細胞を攻撃してしまう状態) であるという論文が発表されました。この発見によって、今後新たな検査法や治療法が期待されますね。

【参考】
日本睡眠学会 ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン
睡眠障害国際分類第3版