第28回 お酒との付き合い方

<第28回> 2019年7月2日 成田 心

 いきなりですが皆さん、お酒はお好きですか?
 お酒が好きでグイグイ飲める人もいれば、全く飲めない人や好きだけどあまり飲めない人など、お酒との相性は人それぞれです。では、俗にいうお酒に「強い」「弱い」は何が決めているのでしょうか。これにはお酒の代謝にかかわる2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が大きく関係しています。

 ALDH2はお酒(アルコール)から分解されたアセトアルデヒド(動悸や吐き気、頭痛、顔面紅潮など、お酒に弱い人特有の症状を引き起こす原因)という有害物質を無害な物質に変換する役割を有しています。ALDH2活性には個人差があり、ALDH2の働きが正常な人(活性型)はアルコールの代謝が速やかに行われるため、お酒に強い(たくさん飲める)体質になります。逆に、ALDH2の働きが弱い人(低活性型)はアセトアルデヒドが体内に貯まりやすく、お酒に弱い(ほどほどに飲める)体質。さらに、ALDH2の働きが全くない人(不活性型)も存在し、その人はお酒を一滴も飲めません。このようにALDH2の働き具合には大きく3パターンあり、自分がどれに当てはまるかでお酒との相性を知ることができます。ちなみに日本人の割合としては、活性型が56%、低活性型が40%、不活性型が4%とされています。

 自分のALDH2活性パターンを知ることはお酒との相性を知るだけでなく、自分自身のお酒との付き合い方を考えるきっかけにも繋がります。実際、私は学生時代にアルコールの研究をしていた過程で自分がALDH2の低活性型であることを知り、それからは日頃の飲み会でも自分の許容量を超えるような飲酒をしないよう心掛けています。私のような低活性型や不活性型の人は、活性型の人に比べて過度な飲酒を繰り返すことで食道がんなどの発がんリスクが高くなることが知られており、自分自身の体質に合わせた節度あるお酒の飲み方をすることが重要です。特に不活性型の人は、少量の飲酒でも急性アルコール中毒を起こす可能性があるため、飲み会の席でお酒を勧められた時は自分が全く飲めない体質であることを相手にしっかりと伝える必要があります。一方、活性型の人は体質的に飲酒量をコントロールすることが難しく飲酒が原因の生活習慣病になりやすいのが特徴で、最悪の場合はアルコール依存症になる危険性も持ち合わせています(日本のアルコール依存症患者の9割弱はALDH2の活性型です)。

 ここで忘れてはならないのが、「アルコールは依存性のある薬物」だということです。アルコールは酒類として合法的に市販されていることから、我々の生活にとってかなり身近なもので、身体依存性が高く離脱症状(いわゆる禁断症状)が激しいといわれています。アルコール依存症になると自分の意思で飲酒をコントロールできなくなり、心身の健康問題をはじめ、家族や職場など周りの環境にも大きな影響を与えます。また、一度なってしまったら完治することのない疾患で、回復には長い年月と大変な努力が必要になります。アルコール依存症にならないためにも常日頃からきちんと予防することが大切です。以下に3つの予防法を提示しますので、参考にしてみてください。

<アルコール依存症の予防法>
① 正しい知識をもつ
  →アルコール依存症の恐ろしさや、なぜなってしまうのかについて、正しい知識を   もつこと。
② 適量の飲酒
  →深酒せずに、適量の飲酒を心掛けること。
③ 休肝日をつくる
  →休肝日を2日以上つくること。

 お酒は「百薬の長」とも「万病のもと」ともいわれます。すなわち、適量の飲酒は健康に良いといわれますが、多量のお酒は心身の健康へ悪い影響を及ぼします。お酒に関する様々な社会問題がマスコミに取り上げられるこのご時世、自分がその当事者にならないためにも日頃からお酒の飲み方には注意しつつ、楽しい飲酒ライフを送りたいものです。
 最後に、自身のアルコール感受性は遺伝子検査により簡便かつ正確に調べることが可能です。是非皆さんもお酒に対する自分自身の体質を知り、今後のお酒との付き合い方について考えてみてはいかがでしょうか。

 


参考:人とお酒のイイ関係 -アルコール依存症の予防法-
   https://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/alcohol_addiction/prevention.html