第37回 医療の値段は誰が決めるの?

<第37回> 2020年4月6日 中里信和部長

 2020年4月は、2年毎の診療報酬改訂の季節です。病院は診療行為にもとづき診療報酬明細書(レセプト)を作成して、公的医療保険を請求しますが、明細書の各項目は金額ではなく点数化されています。通常は1点=10円ですが、外国人等の診察には1点を20円や30円に換算して請求することも可能です。

 診療報酬点数が高ければ患者さんの負担は増えますが、病院の収入は上がりますから、その検査や治療を選択しやすくなりますが、日本全体での医療費の予算は決まっていますので、無制限に高くすることはできません。

 逆に、たとえどんなに素晴らしい医療行為であっても、点数が低すぎると病院には損失になりますから普及しません。病院職員の給与の出所も、もとをただせば診療報酬点数にたどりつくわけですから、私たちにとっても身近な問題です。

 私は現在、2つの学会で、医療費問題を取り扱う委員会の委員長をつとめています。今春の改訂に向けては2年前から準備を開始し、昨年4月に申請書を提出し、昨年7月に厚労省でのヒアリングに赴いて検査の重要性を追加説明し、申請が通りそうな項目については昨年12月から今年の1月にかけて、厚労省の担当官からの個別の質問にお答えして、ようやく今年の1月下旬から3月にかけて改訂の全貌が明らかになった、という流れでした。

 お陰様で私が担当した申請項目のうち、「脳磁図」については、これまで1回 5,100点だったものが、てんかん診断に限り1回 17, 100点への大幅増となりました。また脳深部電極植込術が新規に認められ、専用のロボット等を使って7本以上を入れる場合は 96,850点という点数がつきました。当院にはどちらの装置もありませんが、難治てんかんの患者さんへの外科治療をさらに推進してくれる検査法ですので、装置の減価償却にも目処が立ちやすくなったので、ごく近い将来、実施できるようになることを願っています。

 私にとってはもうひとつ、臨時ボーナスのようにうれしい知らせがありました。遠隔連携診療料の新規導入です。てんかん科では、東日本大震災後に気仙沼市立病院を支援すべく、現地での診察にテレビ会議システムを用いて参加する方式のボランティアを展開していました。今回、遠隔医療を推進しようという国の方針に沿っているとの理由で、どこの学会からも申請書を出していなかったのにも関わらず、診察料に500点を上乗せできることになったのです。適応疾患としては、<イ>てんかん、てんかん疑い、<ロ>その他の特定疾患ということで、当院のように専門性の高い病院にとっては、地方の病院の診断精度向上に貢献しやすくなりました。

 日本は皆保険制度という素晴らしい制度があります。2年に1回の診療報酬改定においては、この制度を堅持すべく、きわめて緻密なシステムが機能しています。申請書の中には、それぞれの医療行為がどのように優れていて、これを実施すれば他の医療費を削減できるはず、というシミュレーションが求められます。また審査する上でも厚労省の担当官だけでなく、さまざまな分野の医師や医療関係者、あるいは支払い基金側のチェックが入ります。結局のところ、国民の視点でみて絶対に必要だという診療行為だけが、点数として認められていく、といって良いかと思います。