第75回 人は血管とともに老いる

<第75回> 2023年10月24日 船水 康陽

「人は血管とともに老いる」これは、今から100年以上前にアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学で近代医学教育の基礎を作ったウィリアム・オスラー博士(William Osler: 1849~1919)の有名な言葉です。
私たちの身体には血液を心臓から全身に送る動脈と心臓に戻す静脈、そして細胞と血管の仲介をするリンパ管が巡っています。そこを流れる血液やリンパ液は身体を作る細胞の一つひとつに酸素と栄養を与え、老廃物を排出しています。ところが常に血圧の刺激を受けている血管は、年齢を重ねるごとに弾力が低下したり、コレステロールが血管内に付着して狭くなったり傷ついたりして、酸素や栄養が十分に行き渡らなくなります。これが「人が血管とともに老いる」といわれる所以で、高血圧や高脂血症、糖尿病を患う人はなおさらです。
厚生労働省発表の令和4年(2022)の主な死因の構成割合(図1)では、死因の第1位は悪性新生物(24.6%)ですが、循環器疾患である2位の心疾患(14.8%)と4位の脳血管疾患(6.8%)の両者を合わせると1位とほぼ同じの割合(21.6%)であり、我が国の主要な死因の1つです。これらは単に死亡を引き起こすのみではなく、急性期治療や後遺症治療のために、個人的にも社会的にも負担が大きく、特に脳卒中は我が国の「寝たきり」の原因の第1位であり、対策の推進が必要です。
循環器疾患は高齢になるほど増え、高齢者人口の増加を背景に患者数・死亡者数は今後も増え続けると推計されています。また、平均寿命と健康寿命の間には約10年の乖離があり(図2)、その原因の1つである循環器疾患の死亡・罹患率の改善は非常に重要な課題です。
現在、超高齢社会の大きな課題である循環器疾患の克服に向け、社会は動き出しています。病気は体験して初めて気付くことが多く、まだ発症していない病気や発症するかわからない病気に備えるには、各々が意識を変えていく必要がありそうです。そのためには、まずは知ることが大事です。

図1 主な死因の構成割合 令和4年(2022年)
令和4年度(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf(参照2023-10-18)

図2 平均寿命と健康寿命の推移
e-ヘルスネット 厚生労働省https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html(参照2023-10-18)